その点検、保安管理に含まれていますか
一行でいうと
点検で何をするかを決めているのは、法令ではなくその設備の保安規程です。
だから「含まれる/含まれない」は、事業場ごとに違います。
点検項目を決めているのは、保安規程です
意外に思われるかもしれませんが、「太陽光発電所の点検では、これとこれをやること」という
一覧を、法令が直接持っているわけではありません。
電気事業法施行規則は、保安規程に定めるべき事項のひとつとして
「巡視、点検及び検査に関すること」を挙げています(第50条第3項第3号)。
つまり、中身は保安規程に委ねられています。
保安規程の記載例を見ても「別表第1に定める基準により行う」となっていて、
その別表は設置者が埋めるものです。
ですから、点検に何が含まれるかは、契約書ではなく保安規程を見ないと分かりません。
ここが、見積りを比べるときにいちばん効いてくるところです。
図1 点検項目の決まり方。法令は「保安規程に定めること」までを求め、中身は保安規程に委ねている。
保安規程は「どの事業場でも共通の土台」と「事業場ごとに足すもの」に分かれる。
国が「最低限これは」と示しているもの
保安規程に委ねられているとはいえ、何も目安がないわけではありません。
国の内規(主任技術者制度の解釈及び運用)が、保安管理を外部に委託する場合の
点検方法を示しています。以下は、その場合の話です。
(社内に電気主任技術者を選任している事業場には、この定めはそのままは掛かりません)
月次点検
- 外観の確認 — 異音・異臭・損傷・汚損がないか、離隔距離は保たれているか、
機械器具や配線の取付け状態と過熱の有無、接地線などの保安装置の取付け状態。
加えて「その他必要に応じて、保安規程に定める項目」 - 測定 — 電圧、負荷電流、B種接地線の漏えい電流
- 問診 — 設置者とその従業員の方に、異常がなかったかを伺う
内規はこの3つを「全てに従って行うこと」としています。
測るだけでも、見るだけでも足りない、という組み立てです。
年次点検(内規が「全ての項目」として挙げている6つ。設備が無ければ、その項目は対象外です)
- 絶縁抵抗の測定
- 接地抵抗の測定
- 保護継電器の動作特性試験と、遮断器との連動動作試験
- 非常用予備発電装置の確認
- 蓄電池設備の確認
- 高濃度PCBに該当するかの確認
これが土台です。 保安規程は、ここに事業場ごとの事情を足していく形になります。
IVカーブ測定とサーモグラフィは、ここに出てきません
太陽光発電所でよく話題になるIVカーブ測定とサーモグラフィ。
実は、この内規の全文(29ページ)を検索しても、一度も出てきません。
「IV」「I-V」「IV」「サーモ」「赤外線」「ストリング」「開放電圧」——
どの語も現れません。国の主任技術者制度Q&A(令和8年1月)も同じです。
では、どこに書いてあるのか。民間のガイドラインです。
日本電機工業会と太陽光発電協会がまとめた「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」
(JM19Z001)に、どちらも出てきます。ただし、扱いの強さが違います。
- IVカーブ測定 … 「発電性能に係わる保守の一部として,I-V 曲線測定を
定期的に行うことを推奨する」(11.3.4.3) - 赤外線サーモグラフィ … 「発熱した(抵抗性)接続部を探すために,
赤外線サーモグラフィを用いてもよい」(11.2.2.1)
このガイドラインは「しなければならない」という書き方もしています。
そのなかで、どちらも「しなければならない」とは書かれていません。
IVカーブは勧められていて、サーモグラフィは手立てのひとつとして挙げられている。
そういう位置づけです。
ただし、「道具として使う」のは別の話です
ここは、はっきり書き分けておきます。
内規は月次点検で「過熱の有無」を見ることを求めています。
そして電気が来ているあいだ、受変電設備の中には手で触れられません。
ですから当事務所では、受変電設備の中はサーモカメラで温度を見ています。
これは内規の項目を果たすための道具であって、追加の診断ではありません。
点検に含まれます。
別のご相談になるのは、太陽光のパネルを1枚ずつサーモグラフィで見ていく診断のほうです。
定期的に行うのも、発電量が落ちたときに原因を突き止めるのも、どちらも値打ちのあることです。ただ、内規の点検項目には入っていません。
同じ「サーモグラフィ」でも、内規の項目を確かめる道具として使うのか、
それ自体を診断項目として行うのかで、扱いが変わります。
費用を抑え、その分を設備の修繕へ
これらを毎回の点検に組み込むこともできますが、そのぶん保安管理の費用が上がります。当事務所は点検はできるだけ効率よく行い、費用を抑えておいて、その分は設備の修繕に回していただくほうがよいと考えています。
かといって、やる値打ちがないという話でもありません。 民間のガイドラインが
「推奨する」と書いているものを、意味がないとは言えません。
法令が求める最低線の外側にある、というだけのことです。
逆に、これらを含めている契約もあります。それも間違いではありません。
保安規程に書けば、点検項目になるからです。設備の事情に応じて足していくものなので、
含めるかどうかは、事業場ごとの判断になります。
つまり——同じ「保安管理」という言葉でも、中身が違うことがある。
これが、見積りの金額だけを並べても比べきれない理由です。
見積りを比べるとき、どこを見るか
金額の前に、次の3つをご確認ください。
- 月次点検で何を測るか。 電圧・負荷電流・B種接地線の漏えい電流。
外部委託であれば、求められているものは同じはずです。
ただし、どこまで細かく測るかには幅があります。たとえばパワーコンディショナが
何台もある発電所で、1台ごとに電流を測るかどうか。
報告書を見れば、どちらなのかが分かります - 年次点検に何が入っているか。 絶縁抵抗、接地抵抗、保護継電器の試験。
非常用発電機や蓄電池をお持ちなら、それも - それ以外に、何が付いているか。 IVカーブ測定、パネル1枚ずつのサーモ診断、除草、清掃——
これらは付けることも、外すこともできます。付いていれば、そのぶんの費用です
3つ目が、金額の差になって出てくることが多いところです。
安いほうが手抜きとは限りませんし、高いほうが親切とも限りません。
何が付いているかを揃えて比べれば、判断ができます。
では、パネルの診断は要らないのか
そうではありません。必要な場面は、はっきりあります。
発電量が落ちているのに原因が分からないとき。パネルの一部だけがおかしいと疑われるとき。
そうした場合には、IVカーブを測ってストリングごとの状態を見たり、
パネルをサーモグラフィで見て発熱している箇所を探したりします。
目で見て分からないものを、数字と像で捉える手立てです。
当事務所では、これらを別途のご相談としてお受けしています。
毎回の点検に含めて費用を上げるより、必要になったときに、必要な範囲で行うほうが、
無駄がないと考えているからです。
もちろん、はじめから含めておきたいというご希望があれば、そう組むこともできます。
そのときは保安規程に書き込みます。書いてあれば、それが点検項目になります。
出典
「主任技術者制度の解釈及び運用」(内規)4.(7)②イ・ロ、4.(7)③ロ/
電気事業法施行規則 第50条第3項第3号/
日本電機工業会・太陽光発電協会 技術資料 JM19Z001
「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」(2016年12月28日制定/2019年12月27日改訂)
11.2.2.1、11.3.4.3。同ガイドラインは太陽光発電協会のウェブサイトで公開されています。
内規の全文検索は2026年8月23日時点の公開版、JM19Z001の引用は2026年8月25日に取得した
現行版の本文によります。